「苦手なお客様がいて、会いに行くのが億劫です。」
私がセールスを始めた頃、苦手なお客様がいて会いにいくのが嫌だなと思っていました。すると上司から、「苦手なお客様がいるんだったら、その人にこそ何度も何度も会いに行くようにした方がいいよ」と言われました。
上司が言う様に、何度も何度も会うことで、相手との距離が縮まるとよく言われますが、これは本当なのでしょうか?
もくじ
何度も会う
これは事実です。
たいていのお客様は初めて会うセールスとは距離を置いて、「この人はどういう人なのだろう?」といういぶかしい顔をされます。
しかしその後、何度も何度もそのお客様とお会いするうちに、さして素晴らしい話しをしなかったとしても、お客様から「先日はありがとうございました」、と喜ばれたりします。つまり、何度もお会いすることで、親近感が湧いて、好意が高まってきたということでしょう。
これが、ザイアンスの「単純接触効果」です。
単純接触効果
1968年、アメリカの心理学者ロバート・ザイアンス氏が提唱。
何度も目にする馴染みのものには、好意が高まる効果。
「単純接触効果」とは、接触する機会が増えると、その相手に対して親しみが増したり、好意が高まる効果のことを言います。アメリカの心理学者ロバート・ザイアンス氏が提唱したものですが、彼は2つの実験を行いました。
接触回数が多いほど良い
まず1つ目の実験は、大学生を被験者として行いました。卒業アルバムに12人の写真があり、この写真を被験者に見せて、どの写真に好意を抱いたかという結果を確認します。その12人の写真ですが、とある2人の写真は0回の接触回数、とある2人の写真は1回の接触回数、といったように、接触の頻度を分けます。最低で0回、最大で25回接する機会を作り、それらを被験者に見せ、全部で86回提示しました。さて、結果はどうなったでしょうか?
- 卒業アルバムに掲載している12名の顔写真を被験者に見せる
- 1枚につき2秒のペースで無作為に86回提示する
- 見終わった後、被験者は写真への好意度を7段階で評価する
- 写真には提示回数を設定(0回・1回・2回・5回・10回・25回で2枚ずつ割り当て)する
- 提示回数が0回の写真が2名いる
皆さんご察しの通り、25回接した写真、その写真に写っている人に対して、多くの人が好意を寄せ、親近感が湧いたと回答しました。
この結果から、冒頭で私が上司に言われた通り、何度も何度も会うことによって、その距離を縮められるということは事実ですし、効果があるということが分かるかと思います。
記憶されていなくても良い
そしてもう1つの実験です。先ほどの実験は、写真、そして人を使った実験なので、もともと好き嫌いが発生しやすいものでした。そこで今度は、人ではなく物で実験をしました。
非中国語圏の人々に対して、漢字を1回しか見せないAグループと、5回見せるBグループを使って、どちらが漢字に対して好意を寄せるか、というのをヒアリングする実験です。
ポイントは、漢字を見せる時間なのですが、1,000分の5秒以下という、非常に短い時間しか見せませんでした。この1,000分の5秒以下というのは、その漢字に対して難しい漢字だなとか、かっこいい漢字だなといった認識ができないような、非常に短い時間です。
そして、漢字以外にも別のシンボルも織り交ぜながら見せていったのですが、結果はどうなったかというと、先ほどの人の顔の実験と同じように、やはり何度も、つまり5回漢字を見たグループの方が、漢字に対して興味や関心が高かったという結果でした。
この実験結果から、何度も会うということに加えて、その会ったことが記憶されているかどうかというのは関係がないということがよく分かります。
10回まではとにかく会おう!
アプローチの段階では、お客様の記憶に残るか残らないかは関係なく、どれだけお客様と接触したかというのが重要です。
よく名刺に、顔のイラストや写真を載せている方がいらっしゃいますが、これも十分に効果があります。つまり、実物ではなくてイラストだったとしても、何度も何度もお客様の目に触れるということが重要なのです。
そこで、お客様にお会いできなかったとしても、顔のイラストや写真を載せた名刺を、ポストに投函しておいたり、玄関の扉に挟んでおいたりすることで、後日実際にお会いした際には、お客様が親近感を持って接してくださることが期待できます。
お客様と相性が良い、悪いは関係なく、とにかくお客様と何度も接触することが大切です。たとえそれが記憶に残らなくても、お客様との距離を縮めることに効果があります。また、この「単純接触効果」ですが、10回までは効果が確認できています。
コロナ禍において、お客様と会う機会がなかなか作れないかもしれません。ですが、リアルで会ったり、またWeb上で顔を出して会うということは十分効果のあることだということが実証されているので、たとえ苦手なお客様だったとしても、努力して会う機会を作ってみましょう。