「お客様のニーズ喚起がうまくできません。」
生命保険は万一に備えて準備しておくものです。その必要性を感じていただくには、普段は表面化していないが、心の奥底にはあるであろうニーズを引き出さねばなりません。これを潜在ニーズの顕在化といいます。
しかし、万一のことは「自分事として捉えたくない不都合なこと」です。したがって、あからさまにお客様の身に降りかかるとお話をしても、自分事として捉えていただけないケースがほとんどです。
もくじ
2つのニーズ
ひと言で「ニーズ」と言っても、「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」の2種類があります。
この2つの違いは、次のイラストの様なイメージです。
「顕在ニーズ」とは、セールスがそのニーズを喚起するまでもなく、お客様が既に気付いているニーズのことです。
一方で「潜在ニーズ」とは、お客様がまだ気が付いていないニーズのことを言います。生命保険のセールスにおいては、この「潜在ニーズ」を、セールスと話すことでお客様に気付いてもらい、その解決策として生命保険がお役に立てるということを理解してもらうことが大切です。
例えば、もし自分が病気になったら、家族が自分の代わりに働きに出なくてはいけなくなるのではないかとか、子どもが大学を辞めなくてはいけなくなるのではないかとか、抱えている住宅ローンは誰が支払っていくのだろうかとか、こんなことを毎日心配している人はいません。しかし、心の奥底にはこの様な心配事があるわけです。 こういった、普段考えたくない事を想像してもらい、自分事として考えてもらう、それが保険のセールスの仕事であり、また、最も難しいところです。
ニーズ喚起手法
そこで、この「潜在ニーズ」を喚起するには、どうしたら良いのでしょうか。
ニーズ喚起の肝は、お客様に想像を働かせていただくことです。ここにはテクニックがあります。そのテクニックを2つご紹介します。
それが「赤いマント効果」と「シロクマ効果」です。
赤いマント効果
さて、まず「赤いマント効果」。聞いたことがあるという人、いらっしゃいますか?
赤いマント効果
2015年頃に私(川口)が勝手に命名(なんて権威のない効果だ)
架空の世界を一般論で語り、擬音を用いて現代の世界へ引き込み自分事化させる技法
「聞いたことがある!」と言った人、あなたは嘘つきですね。「赤いマント効果」は私が勝手に名付けました。皆さんの耳に届くほど有名な訳がありません。しかし、保険会社でセールスや講師、プレゼンテーターとして常に人前で話しをする仕事をしていた私は、この効果をとても実感していました。
この効果は「赤いマント」の小話に由来しています。「赤いマント」の話とは次のようなお話しです。
これは40年前に起こった事件です。夜、暗い道を一人で歩いていると、後ろから音が聞こえます。
「コツコツ」
自分の歩(あゆみ)に合わせて、「コツコツ」と聞こえます。歩を止めると、その音も止まります。歩を速めるとその音も早まります。
「コツコツ、コツコツ、コツコツ」
その音がだんだん大きくなってきます。そして、かすかな声がハッキリと聞こえるようになります。
「赤いマントはいらんかね?赤いマントはいらんかね?」
そして暗がりの中振り向いたところ、「グサッ」とナイフで刺されて、マントの様に背中から赤い血を流して倒れてしまいました。
父の転勤で私が東北地方に住んでいた小学生のころに、友人が暗がりで話をしてくれた小話です。最後の「グサッ」というところでは、話しをしていた友人が私の背中に「ドンッ」と手をあてます。このとき、目が飛び出るほどびっくりしたのを覚えています。
とても記憶に残る小話ではあるのですが、こういったお話というのは、誰がなんのために創作し、広めたものなのでしょう?
きっと「夜、暗い時間は外に出ちゃダメだよ」ということを伝えたい、お父さんやお母さんが物語を創作し、そして自然に広く伝わることによって、多くの人に浸透していったものではないかと思います。確かにこの話を聞いて、「夜遅くには出歩きたくない」という気持ちになったことを覚えています。まさに行動経済学でいうところのNudgeです。
さて、この赤いマントの話しがなぜ素晴らしく、短時間で相手を突き動かす話しになっているかというと、話しの構造がしっかりとしているからだということが分かります。
この構造は大変よくできていて、パブリックスピーキングで相手を引き込む話法としても十分通用するものです。
シロクマ効果
もう一つが「シロクマ効果」です。こちらは心理学の中で「カリギュラ効果」とも呼ばれているものです。
シロクマ効果
1987年にハーバード大学のダニエル・ウェグナー氏が提唱
考えないでおこうという意識が、逆にそのことを考えさせてしまうという効果
ハーバード大学のダニエル・ウェグナー氏がこんな実験を行いました。34名の被験者を、Aグループ・Bグループに分けます。
- Aのグループには「シロクマのことを一生懸命考えてください」とお願いします。
- Bのグループには「絶対にシロクマのことを考えないでください」とお願いします。
そして各グループに、もしシロクマのことが浮かんだら、このボタンを押してください。このボタンを押すと赤いランプが光ります、と伝えます。さて、どうなったでしょうか。
Aのグループは、言われた通りしっかりとシロクマのことを考えました。一方でBのグループ、シロクマのことは考えたくないな、と思うのですが、逆に考えてしまいます。その結果、Bグループの赤いランプは、Aグループ以上に光りっ放しだったそうです。
この実験にはもう一つ面白い結末があります。
その後、Aのグループ、Bのグループそれぞれに、「シロクマについて考えてください、そしてシロクマの特徴を挙げられるだけ挙げてください」とお願いしたところ、Bのグループの方がよりシロクマの特徴を挙げることができました。
このように「シロクマ効果」というのは、人は考えるなと言われると、逆についつい考えてしまい、更には記憶にも強く残ってしまう効果なのです。
死亡保障への応用
それではこの2つの効果をセールスに応用してみましょう。
それも、もっとも難しい「あなたが亡くなるかもしれない」という死亡保障の必要性を訴えるためのニーズ喚起で考察します。
まずは「赤いマント効果」です。
死亡保障を語るとき、「お客様に起こるかもしれない、お亡くなりになる話なのですが」と神妙な顔をしてお話しをしたとしても、お客様の心を動かすことはできません。いきなり自分事化して受け入れてもらおうというのは難しいのです。もっと飲み込みやすくしてあげなければなりません。
そこで先ほどの「赤いマント」の話しの様に、「とある架空の世界で人が亡くなる」ということをお話しし、しっかりと「擬音」を使って想像を働かせることが大切です。私の知り合いにAさんという方がいました。この方がある日突然「バタッ」と倒れてしまいました。という感じです。そして、リアルに場面を想像いただいたところで、「そんなことがお客様に起こったらどうしますか?」と自分事化して、理解を深めていただく必要があります。これが死亡保障のニーズ喚起の大きな大きなポイントです。
そして「シロクマ効果」です。
赤いマント効果を使って話した物語をお客様の心の中に楔として打ち込みます。具体的には、お客様とお会いした最後に、こうお伝えしてみてください。「来週私とお会いするまで、自分が亡くなったこととか、自分が病気になったら家族はどうなるんだろうか、そういったことは絶対に考えないでください。」「そういったお話しは、私と会ってる時だけにしましょう。」
そうお伝えすることで、お客様はもう考えられずにはいられなくなります。帰る時に歩いていて、車が真横をビューっと通り過ぎたら、「ああ、時間がずれていたらぶつかっていたかもしれない」「僕が仕事をできなくなったら、家族はどうやって生活をするんだろう」等、考えるなと言われれば言われるほど、考えてしまうものなのです。
こういった効果をうまく活用して、もっとも難しい死亡保障の「潜在ニーズ」を喚起してみてください。
この2つをうまく活用することで、お客様にしっかりと「潜在ニーズ」を感じていただくことができるはずです。 修辞法やプレゼン技法など、あらゆる技術の手を借りて説明をしないと死亡保障の必要性を理解させるのは難しいものです。
こういったテクニックを使って、「潜在ニーズ」を喚起し、お客様に、まだ気付いていない「リスク」について自分事化して考えてもらいます。死亡保障のニーズ喚起ができるようになれば、その他のニーズ喚起などお手の物です。死亡保障をご提供できる力がつけば、どんな保険、どんな金融商品、どんなサービスだってお伝えできるはずです。最高の土俵は日々の営業の中で用意されています!頑張ってスキルを磨きましょう。