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16.リスクに効くクスリ

お客様に、保険で回避すべきリスクをうまく理解していただけません。

生命保険のセールスにおいて、一番大切なことは「お客様にリスクマネジメントの本質をどうやって理解していただくか」です。そしてこれが一番難しいことでもあります。

お客様が感じているリスクと、私たちプロのセールスが重要だと思っているリスク、すなわち「本来回避すべきリスク」が異なることが多々あります。

「保険で回避すべきリスクって何?」という問いに対して、私たちはどうお答えしていくのか、そしてそれをお客様にどうお伝えしていくのか、「アベイラビリティバイアス」というものを考えてみます。

衝撃の大きさ

「アベイラビリティバイアス」とは、人は新しい情報や、感情への衝撃が大きい情報を重要視する、という理論です。

アベイラビリティバイアス

1970年、エイモス・トベルスキー氏とダニエル・カーネマン氏が提唱

状況や判断を評価するとき、人は脳内にある最も入手しやすい情報を利用するという考えのこと

例えば、飛行機での移動と、車での移動、どちらが危険だと思いますか?

「飛行機は怖くて乗れないから、車で行くことにする」という人はいても、「車は怖くて乗れないから、飛行機で行くことにする」という人にはまず出会いません。多くの人は、「飛行機=危険」と思っていますが、「車=危険」とは思っていないのです。それでは実際は、どちらが危険な乗り物なのでしょうか?

飛行機と車の事故で亡くなる人数というのを調べてみました。すると、飛行機事故で亡くなった人は556人*1。これに対して、自動車事故で亡くなった人は3,532人*2でした。

*1 ASN(航空安全ネットワーク)によって集計された2018年の全世界のフライトを対象にしたデータ
*2 警視庁「令和元年中の交通事故死者数について(2018年)」

自動車事故の方が飛行機事故よりも約7倍も多い!と思われたあなた、実はもっと差が大きいのです。

母数が違います。飛行機事故の556人というのは全世界においてですが、自動車事故の3,532人というのは、日本においての数字です。ということは、分母が70億人なのか、1億2,000万人なのかが違うのです。分母で割って確率に変えてみると、相当違うことが分かるかと思います。

しかし人はなぜか、「飛行機」の方が怖いと感じてしまっているのです。それは恐らく、飛行機事故はめったに起きない事故なので、実際に事故が起こるとメディアで大きく取り上げられたり、テレビ番組のドキュメンタリーになったりするからなのではないでしょうか。そういったことから、脳への衝撃が大きく、「飛行機=危険」というのが、人の脳に深く刻まれるのです。

身近にある誤解

他の例も見てみましょう。

アメリカのフロリダにあるビーチでは、毎年「サメに襲われる」という事故があるそうです。そんなニュースを見てしまうと、フロリダのビーチは怖いから、行くのをやめようと思う人がたくさん出ます。

ところが、フロリダの自然史博物館が発表した統計によると、毎年サメに襲われて亡くなる人の数と、道で鹿とぶつかって亡くなる人の数を比べたところ、鹿とぶつかって亡くなる人の数の方がなんと300倍も多いのです。しかし、「鹿とぶつかるのが怖いから、道を歩くのはやめよう」と思う人はいません。

この様な数字をみていくと、私たちが「危険」と感じていることと、実際の「危険」は異なることが分かります。人は、何か情報を脳から取り出す際、衝撃度が強い情報、もしくは最新の情報を最優先に取り出してしまいます。要するに、バイアスがかかってしまっているのです。

がんのリスクの捉え方

「がんは2人に1人が罹患する病気です」という言葉はがん保険の提案で利用されます。しかし、この数字の見せ方にアベイラビリティバイアスはかかっていないのでしょうか?確かに2人に1人が罹患するならば対策をしておこうと思うものです。

国立がん研究センターがん対策情報センターの2019年データによると、日本人が一生のうちにがんと診断される確率は

  • 男性で65.5%
  • 女性で51.2%

となっています。

「一生涯でがんと診断される確率が約50%である」という根拠はここから来ています。しかし、がんは高齢期に罹患する確率が上がる病気ですから、この割合だけでがん保険をお勧めするのは軽率な行動だと言わざるを得ません。年齢別や男女別でデータを読み解いていく必要があるはずですし、数字に強いお客様であれば、その点はすぐに見抜いてしまうでしょう。もっと、お客様の納得できるバイアスのかかっていない材料をご提供すべきです。

そこで、改めて若い人の「死因」を考えてみます。例えば35歳~39歳の女性の死因の1位は何だと思いますか?若い人の場合は、「自殺」や「事故」で亡くなる人が多いことはよく理解されています。しかし厚生労働省の調査*3によると、35歳~39歳の女性の死因の1位は「悪性新生物」=がんなのです。

*3 厚生労働省「人口動態統計月報年計(概数)の概況(令和3年(2021年))」

えっ?

さっき、がんは高齢の人がなるケースが多いと言わなかった?と言う人もいると思います。確かに高齢になればなるほど、がん細胞ができやすくなると言われていますが、女性においては、若いうちにがんに罹患する方が意外に多いのです。子宮頸がんの罹患率、乳がんによる死亡率は欧米と比較して非常に高いという統計があります。この結果を見ると、若い女性に必要な保障は「がん保険」という見方も出てきます。

お客様の記憶には、衝撃的な情報、もしくは最新の情報が鮮明に残り、それがあたかも真実だと勘違いしてしまっています。お客様の間違ったイメージを払拭し、正しい情報を、正しくお客様にお伝えすることで、本当に必要な保障を理解していただきましょう。

ニーズ確認の際には、その間違った記憶から解放し、正しい情報をお伝えすることが大切です。そうすることで、目に見えないリスクを可視化し、保険に加入するべきところは、統計的によく起こる事、そして万が一起こってしまった際に、経済的なダメージが大きいところなのだということを認識いただき、ご提案に移すということが大切です。決して、お客様が危険だと思っているものだけがリスクではない、ということを認識いただきましょう。

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